九州大学が直接的二酸化炭素回収ベンチャーに出資・事業参画

九州大学発のナノ分離膜を用いた革新的CO2回収技術の実用化

 九州大学は、九州大学発の実用開発中ナノ分離膜を用いた、大気からの直接的二酸化炭素(以下「CO2」)回収技術(membrane-based Direct Air Capture、以下「m-DAC®(※1)」)と、回収したCO2の利活用技術の実用化に賛同・推進すべく、2023年5月に双日が主体となって設立した Carbon Xtract株式会社(以下「Carbon Xtract」)に九州大学として初めて出資し、事業参画する。

分離膜によって、エアーフィルターのように大気から CO2を回収・濃縮し、様々な有用物質に変える装置「Direct Air Capture and Utilization (DAC-U®)システム」
分離膜によって、エアーフィルターのように大気から CO2を回収・濃縮し、様々な有用物質に変える装置「Direct Air Capture and Utilization (DAC-U®)システム」

 m-DAC®は、空気を膜でろ過するだけでCO2を回収・濃縮するという世界で初めての革新的技術で、これを装置化すれば様々な場所でのCO2回収が可能になる。九州大学はCarbon Xtractの研究開発力の強化と社会実装の加速化を通じ、脱炭素社会の実現に貢献するとしている。

1 月 24 日に行われた定例記者会見。左からCarbon Xtract 森山 哲雄 代表取締役社長、九州大学 福田 晋 理事・副学長、九州大学 石橋 達朗総長、双日 藤本 昌義 代表取締役社長、双日 松浦 修 執行役員、ナノメンブレン 國武 豊喜 代表取締役、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 藤川 茂紀 主幹教授
11 月 24 日に行われた定例記者会見。左からCarbon Xtract 森山 哲雄 代表取締役社長、九州大学 福田 晋 理事・副学長、九州大学 石橋 達朗総長、双日 藤本 昌義 代表取締役社長、双日 松浦 修 執行役員、ナノメンブレン 國武 豊喜 代表取締役、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 藤川 茂紀 主幹教授

 九州大学は、「脱炭素」を大学としての重点分野として位置付けており、総力を結集して未来社会に向けた課題解決を目指す。m-DAC®は、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)が研究開発を進める。九州大学では、このm-DAC®とCO2転換技術の実用化の取り組みを内閣府が後押しするムーンショット型研究開発制度(※2)の支援を受けながら、強力に推進している。

 この技術の早期実用化に向け、2022年2月9日に双日とm-DAC®とCO2転換技術の社会実装に関する覚書を締結し、鋭意検討を進めた結果、研究開発段階からの潜在需要家との連携が不可欠との判断に至り、2023年5月26日に双日が主体となって化学ベンチャーの株式会社ナノメンブレンらと共同で、新会社Carbon Xtractを設立した。

 今回、従来の共同研究や特許ライセンスに留まることなく、関連設備・施設の提供、知財化支援にまで踏み込んだ支援強化による一層の連携を目的に、九州大学としては初めてとなるCarbon Xtractに出資・事業参画を行うことを決定した。

 先進的な研究シーズを生み出す九州大学と、事業会社として様々な企業ネットワークを持つ総合商社の双日が連携・共同出資するのは、九州大学にとって初めての事業形態となる。このCarbon Xtractは設立以降、福岡市が研究開発や九州大学との産学連携目的で運営する施設「いとLab+」にオフィスを構え、事業を本格スタートさせた。現在、多種多様な業界との連携を目指し、複数企業と協業議論を進め、数社とは具体的な方針策定の下、事業提携等を検討している。

 2020年代後半の実用化に向け、m-DAC®によるCO2回収装置のプロトタイプは本年度中の完成を目指し開発が進められ、完成後は複数の協業企業との実証を重ね、市場に求められるDAC装置の展開を目指す。

※1 分離ナノ膜を用いた DAC 技術「m-DAC®」:大気中の CO2を直接回収する技術。九州大学が研究開発を進める m-DAC®は、空気を膜でろ過するだけで CO2を回収・濃縮する方法で、従来の CO2分離膜と比べ極めて高い CO2透過性を有すナノ分離膜を使用することが特徴。
※2 ムーンショット型研究開発制度:我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラム。内閣府 Website: https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

国立大学法人九州大学 概要

所在地:福岡県福岡市、学長:石橋 達朗

 九州大学は、1911 年の創立以来、基幹総合大学としてその歴史と伝統に培われた教育と研究を行い、優れた人材を国内外に輩出するとともに、最先端の研究や医療、また専門性の高い研究成果によって広く社会に貢献する。I²CNER は、2010 年に文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(以下、WPI)」(注 1)に採択、設置され、2020 年には WPI アカデミーの拠点となった。世界で最初に「カーボンニュートラル」を冠した研究機関。(https://i2cner.kyushu-u.ac.jp/ja/)
 またこれらの成果をベースに、大気からの CO2回収を起点として、CO2循環に関する基礎研究から応用・社会実装までを担うネガティブエミッションテクノロジー研究センターを 2021 年に発足させた。(https://k-nets.kyushu-u.ac.jp/)

(注 1)世界トップレベル研究拠点プログラム:日本の基礎研究機能を格段に高め、国際競争力を強化していくために、高レベルの研究者を中核とした世界トップレベルの拠点形成を目指す構想に集中的な支援を行う制度として創設。

双日株式会社 概要

本社所在地:東京都千代田区内幸町 2-1-1、社長:藤本 昌義、資本金:160,339 百万円。https://www.sojitz.com/jp/

 双日グループは、2050 年に向けた長期ビジョン「サステナビリティチャレンジ」の下、脱炭素社会実現に向けた対応方針を掲げ、脱炭素社会や循環型社会を見据えたビジネスの構築に取り組む。

株式会社ナノメンブレン 概要

所在地:福岡県福岡市、代表:國武 豊喜、資本金:1,000 万円。https://nanomembrane.jp/

 理化学研究所での研究成果である巨大ナノ膜の発見を実用技術へと展開する目的で設立。この巨大ナノ膜は、無欠陥でナノ厚みであることから生まれる高いガス透過性や、材質設計による良好なガス分離性、面積はマクロで厚みはナノという扱いやすさと実用的なポテンシャルを持っており、m-DAC®の研究開発を推進する九州大学 藤川主幹教授も技術開発に参画する。この分離膜は広い濃度範囲の CO2を常温・低圧で効率的に分離するナノ膜の開発の他、様々な応用展開が可能で国内外の企業、研究機関と協力して、巨大ナノ膜に関する基礎技術が幅広い展開を目指す。

Carbon Xtract 株式会社 概要

所在地:福岡県福岡市、社長:森山 哲雄、設立:2023 年 5 月 26 日。https://c-xtract.com

 分離ナノ膜を用いて大気から CO2を選択的に回収する技術を活用した装置・製品の開発・販売及びソリューションの提案を進める。様々な企業や大学・研究機関との協業をベースとして m-DAC®の早期実用化と利活用を推進し、小型・分散型 DAC 市場におけるリーディングカンパニーを目指す。

関連リリース

① 2022 年 2 月 9 日:「九州大学と双日、分離膜を用い、大気から二酸化炭素を直接回収する技術とその関連技術の社会実装に関する覚書を締結」(https://www.kyushu-u.ac.jp/f/46910/22_02_09_02.pdf
② 2023 年 6 月 12 日:「双日、ナノ分離膜を用いた DAC 技術の 2020 年代後半の実用化に向け新会社を設立~九州大学発の革新的技術の社会実装を加速化~」(https://www.sojitz.com/jp/news/2023/06/230612.php