大陽日酸、PETガン診断薬原料「水18O」製造プラントを増設

 大陽日酸は、「酸素-18 安定同位体標識水(水18O)※1」の製造プラントを増設し、拡大するPET用診断薬原料としての世界需要に対応する。

 ポジトロン断層撮影診断(PET)によるガン診断は、日本・北米・欧州の市場拡大のみならず、中東・アジア・南米などの新興国での診療開始も加わり、年々増加している。「水18O」は、このPET用ガン診断薬「18FDG※2」の原料として用いられるため、その需要が拡大し、2012 年の世界市場は 700kg/年を超えた。今後も、PETガン診断は年率約 5-10%で増加することが見込まれている。
 さらに、2012年には、FDA(米国食品医薬品局)がアルツハイマー病のPET診断薬を認可し、脳疾患や心疾患のPET新規診断薬の開発が加速している。これらが広く普及するとPET診断は大幅に増加し、「水18O」の世界市場は倍増すると予測されている。

   大陽日酸は、すでに千葉県内に1号製造プラント(年産 100kg)と6月に竣工した2号製造プラント(年産 200kg)を有しており、現状でも世界最大規模の生産能力を持つ。 こうしたなか、「水18O」の3号製造プラント(年産 300kg)を山口県内に新設。これにより総生産量 600kg/年となり、世界でも群を抜いた生産体制が構築される。PET新規診断薬の普及に伴う「水18O」市場の拡大に対応し、安定供給を目指す。
 本プラント建設は、経済産業省「円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進事業費補助金」に採択されている。

【製品概要】
①品名 「Water18O」(水18O)
②濃縮度 98atom%以上(酸素原子比率)
③容量 10g, 20g, 50g(ガラスセプタムバイアル瓶)

【新設プラント】
①生産能力 水18O 300kg/年(98atom%)
②設置場所 周南酸素株式会社(山口県周南市)
③スケジュール 着工予定 2013年、竣工予定 2015 年 春
④ 特徴 新プロセスの採用により、エネルギー効率30%向上

【販売計画】
 日本・北米・欧州を重点市場とするとともに、中東・アジア・南米などの新興地域への販売を強化する。すでに複数の大手需要家と長期供給契約を締結しているが、これに加え新規顧客の開拓で、「水18O」市場シェアを更に拡大する。
 大陽日酸は「水18O」に関して、分離技術の開発、プラントの建設および運転、グローバルマーケティング、セールスを一貫して行える世界で唯一のメーカー。大陽日酸の医療ビジネスの一環として、高度な診断法であるPETによる三大疾患(ガン、脳疾患、心臓疾患)の早期発見・早期治療の推進に貢献する。

【用語解説】

※1 大陽日酸の「酸素-18 安定同位体標識水(水18O)」
 天然の酸素には質量数が 16、17、18 の三種類の同位体が存在し、その割合(酸素原子比率)は、99.76%、0.04%、0.2%。それぞれの同位体は物理化学的性質がほとんど同じであるために濃縮・分離するのは極めて困難。旧来の酸素-18(18O)の濃縮方法としては水(H2O)の蒸留法あるいは一酸化窒素(NO)の蒸留法などがあったが、多大なエネルギーが必要・プラントの安定性に問題がある等、いずれも高品質な製品を大量生産するには難点が存在した。
 大陽日酸は、「酸素(O2)深冷分離技術」による酸素-18 濃縮法を開発、98atom%以上の世界最高濃縮度の「水18O」を 2004 年から大量生産・年産 100kg を開始。本法により、従来法の水蒸留などに比べエネルギー消費を削減、大幅な省エネルギー生産が可能となった。また、最終製品である「水18O」を医薬品製造品質管理規範(GMP)に準じた製造設備・品質管理のもとで生産し、高品質での安定供給を可能とした。PET診断薬 18FDG原料として世界の医療分野で広く利用されている。

※2 18FDG:
 ブドウ糖の類似化合物であるフルオロデオキシグルコースをポジトロン放出核種のフッ素-18(18F)放射性同位体で標識したPET用診断薬。ブドウ糖代謝が激しい腫瘍等の組織に集積するため、PETで 18FDGの体内分布を画像化してガン診断を行う。