エア・ウォーター北海道、共同で国内初の小規模酪農家向け乾式メタン発酵プラントを開発

乳牛のふん尿を活用した地産池消型エネルギーシステムを構築

 エア・ウォーターグループのエア・ウォーター北海道株式会社(所在地:北海道札幌市、北川 裕二 代表取締役社長)は、株式会社北土開発(所在地:北海道芽室町、山田 朝常 代表取締役)および国立大学法人帯広畜産大学(所在地:北海道帯広市、奥田 潔 学長)と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業である「ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業「フェーズ D(大規模実証研究開発)」/小規模酪農家向けエネルギー自給型乾式メタン発酵システムの開発」(以下、本事業)に取り組み、今回本事業において、国内で初めてとなる小規模酪農家向けの乾式メタン発酵プラント(以下:バイオガスプラント)を開発した。

メタン発酵システムの構成概要
メタン発酵システムの構成概要


 本事業は、乳牛飼養頭数 100 頭前後の小規模酪農家に適したバイオガスプラントの実用化を目指すもので、北海道上川郡清水町の酪農家を研究フィールドとして、その取り組みを行っている。

 小規模酪農家では、一般的に乳牛を「つなぎ飼い」にしている関係から、メタン発酵に適さない、麦わら等の長い繊維が混合した半固形状のふん尿が排出される。一方、北海道では現在、酪農向けに約 100 基のバイオガスプラントが稼働しているが、その多くは原料に液状のふん尿を使う湿式メタン発酵プラントであることから、半固体状のふん尿を希釈する高額な大型設備を設置して機械への絡みつきや配管閉塞を避ける必要がある。このため、バイオガスプラントの導入は、乳牛など 100 頭以上を飼養し資金力のある大規模・中規模農家に限られており、北海道全体の約 75%を占める小規模酪農家が導入するには高いハードルがあるのが現
状となっている。

 この課題を解決するため、2018 年度から本事業において半固形状のふん尿を加水せずに処理できる「乾式メタン発酵システム」※1 の開発に取り組み、国内で初めて小規模酪農家にも導入しやすい乾式のメタン発酵プラントを開発した。新たに開発したバイオガスプラントは、半固形状のふん尿を適切に処理できる前処理設備と FRP 製円筒横型の乾式メタン発酵槽を導入したことでふん尿からバイオガス(メタン約 58%)を安定且つ効率的に発生させるとともに、その一部を精製して高純度メタンガス(メタン 98%以上)を製造することができる。

 このプラントで発生させたバイオガスをガス発電機に、高純度メタンガス※2 を燃料電池にそれぞれ供給すれば、酪農家が牛舎や住宅に使う電気・熱エネルギーでの一部をバイオガスエネルギーで自給する仕組みを構築することが可能となる。また、メタン発酵の際に発生する副産物の消化液や固形残渣は、酪農家の代替肥料や再生敷料※3 として活用する取り組みも進めている。

 エア・ウォーター北海道では、このシステムをコスト面から従来の湿式メタン発酵プラントを導入できずにいた小規模酪農家を中心に提案し、小規模酪農家が多い中山間地域に、系統電力に頼らない自給自足型のエネルギー分散型基地として普及させ、酪農家の営農コストを低減するだけでなく、地産地消型エネルギーの推進と CO2排出量の削減に寄与することを目指す。

今回の成果

 本事業で開発したプラントは、原料自動投入装置、原料前処理槽、高温乾式メタン発酵槽、固液分離装置、ガス発電機、燃料電池などで構成される。乳牛飼養頭数100頭規模の小規模酪農家に向けたエネルギー自給型のバイオガスプラントで、1日あたり6.2トンのふん尿を処理することが可能。

乾式メタン発酵槽・原料自動投入装置・前処理設備・バイオガス精製装置

【1】麦稈※4混合乳牛ふん尿を適正に処理するための原料自動投入装置および原料前処理槽を開発

 近年は乳牛への濃厚飼料の給餌量増加や堆肥化のための水分調整資材の高騰により、完熟堆肥の生産が困難になっている。これを受け、酪農家には家畜のふん尿処理を堆肥化処理からメタン発酵処理に切り替えようとする動きが活発となっているものの、上記の理由に加え、原料槽への麦稈混合ふん尿の投入や破砕処理を行うために多くの時間と労力が必要なため、小規模酪農家ではバイオガスプラントの導入が進んでいなかった。

 そこで、麦稈が混合した原料の投入から破砕、混合を一括処理できる技術開発を進めてきた。一切の加水をせず、酪農家の作業負担もほとんどない原料の自動投入装置を完成し、乳牛ふん尿のバイオマスエネルギー利用についての適正処理技術の実証を進めている。

【2】原料を無希釈でメタン処理できる高温乾式メタン発酵槽の実現

 従来の湿式メタン発酵プラントが機械式撹拌機を持つコンクリート製あるいは鋼製の発酵槽を使い中温発酵(38℃程度)で運用するのに対し、本事業ではポンプ式撹拌機を持つFRP製の円筒横型発酵槽を採用し、高温発酵(50℃程度)で稼働させることに成功した。これにより、発酵槽の小型化や低コスト化に加え、メタン発酵効率の向上(原料重量当たりバイオガス生成量30%増))を実現した。

今後の予定

 現在は発生したバイオガスの多くを25kWガス発電機に供給しており、ほぼ24時間の発電が可能となっている。ここで生成した電気(三相200V)や温水は、牛舎に安定的に供給する。蓄電池などを利用したエネルギーの最適化や再配分、長期連続運転による設備の安定性や製造コストの低減などに関する検証を通して、今後は余剰なバイオガスを精製し、製造した高純度メタンガスから改質した水素を燃料電池に圧送することで住宅への電気供給試験(単相100V)を実施する予定。

【注釈】

  • ※1 乾式メタン発酵システム:乾式メタン発酵プラント、発電機、燃料電池から構成されるエネルギー自給システム
  • ※2 高純度メタンガス:バイオガス(メタン約58%の混合ガス)を膜分離することによって得られるメタン95%以上のガス
  • ※3 再生敷料:メタン発酵残さを固液分離し、乾燥化させて牛舎内の牛の寝わら(敷料)として再利用するもの
  • ※4 麦稈(ばっかん):麦わらのこと

本事業の概要

  • 事業名称 :ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業「フェーズ D(大規模実証研究開発)」/小規模酪農家向けエネルギー自給型乾式メタン発酵システムの開発
  • 事業実施者 :代表事業者 株式会社北土開発
  • 共同事業者 北海道エア・ウォーター株式会社
  • 共同研究者 国立大学法人帯広畜産大学
  • 事業実施期間 :2018 年 8 月~2021 年 3 月
  • 事業実施場所 :北海道上川郡清水町