福島県浪江町で小型シリンダー利用の水素充填/配送システムを構築

日立製作所が民生・産業向け水素利用サプライチェーン構築と電力需給調整の実証運転開始

 日立製作所(以下、日立)は、福島県浪江町における民生・産業向けの水素利用サプライチェーン構築および先進デジタル技術で電力需給調整を行う実証事業※1の実施に向け、これまで設計・構築・試運転を進めてきた実証設備・システムについて、2023年9月より本格的な実証運転を開始した。運用後、2024年3月までに成果をまとめる予定。

一般家庭に設置された小型シリンダー(中央)と純水素型燃料電池(右)
一般家庭に設置された小型シリンダー(中央)と純水素型燃料電池(右)
浪江町の大堀防災コミュニティセンターに設置された水素充填・燃料電池設備
浪江町の大堀防災コミュニティセンターに設置された水素充填・燃料電池設備

 本実証において、日立は電力需給バランス制御の精度向上を目的とした水素混焼発電機※2の導入、データ計測とブロックチェーン技術を活用した送電電力の水素エネルギー由来証明の実証実験、小型シリンダーを利用した水素充填/配送の計画システムの構築、および民生・産業需要家の拡大を行うことも計画している。

 本実証は、浪江町が経済産業省から「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」補助金公募に係る補助事業者として採択※3された「水素民生・産業利用サプライチェーン構築及び需給調整実証事業」に関して、日立が受託したもの。

 日立では、プロダクト、OT※4、IT を併せ持つ強みを生かして本実証に取り組み、民生・産業向け水素サプライチェーンの実用化を推進することで、エネルギーとして使用する際に CO2 を排出しない水素の利用促進につなげ、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するとしている。

*1 2022年9月22日の日立ニュースリリース「浪江町において、民生・産業向け水素サプライチェーン構築およびデジタル技術で電力需給調整を行う実証事業に参画」https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/09/0922a.html
*2 水素混焼発電機: プロパンガスと水素を燃料としたプロトタイプの発電機
*3 2022年6月8日および 2023年3月17日に、浪江町が経済産業省から本事業の補助金公募に係る補助事業者として採択
*4 OT(Operational Technology):制御・運用技術

本実証の内容

福島県浪江町における民生・産業向けの水素利用サプライチ
ェーン構築および先進デジタル技術で電力需給調整を行う実証事業
本実証の概念図
  1. 小型シリンダー方式による水素配送(民生向け)
     軽量な水素小型シリンダー(JFE コンテイナー株式会社製)に水素を充填し、浪江町内にある一般家庭に配送する。配送された小型シリンダーを純水素型燃料電池(パナソニック株式会社(以下、パナソニック)製)に接続し、水素を供給し電気に変換することで、一般家庭における水素エネルギー由来の電力利活用を実現する。
  2. 既存配電線を用いた水素エネルギー由来の電源の送電(産業向け)
     水素エネルギー由来の電力を、既存の配電線を用いた浪江町役場などへの送電を計画しており、その際、浪江町役場などの消費電力量に応じた発電コントロール(需給バランス制御)を遠方から行う。
  3. 事業性評価
     上記の運用により収集した水素消費量や燃料電池発電量などのデータ分析を行い、浪江町が設立を構想する「民生需要家向けの小型シリンダー方式による水素配送」事業、および「産業需要家向けの既存配電線を用いた水素エネルギー由来の電力小売」事業を営む「地域新エネルギー会社(仮称)」の事業性評価として、事業が成立する条件やスキームを検討する。

 水素はエネルギーとして使用する際にCO2を排出せず効率的に利活用できるため、地球温暖化対策に有効なエネルギーであり、水素を利活用して CO2 排出量を削減するサプライチェーンの構築が求められている。

 浪江町では本事業を通じて民生向けおよび産業向けへの水素利活用モデルを構築・実証し、水素エネルギー利用を中心とした工場の誘致などによる産業活性化、ならびに町民への水素エネルギーに対する理解促進を図り、地域全体の活性化を進めることをめざす。

 日立は、これまでの水素サプライチェーン構築に関する FS※5 や実証事業などで得られた成果や日立が保有する各種の先進デジタル技術を活用し、浪江町での水素利活用方法に関して、より広域に水素由来の エネルギー利用を広げることをめざし、本事業に参画する。

 本実証は2021年7月2日に浪江町と丸紅株式会社(以下、丸紅)を代表幹事とし、日立、パ ナソニック、みやぎ生協・コープふくしま(以下、みやぎ生協)と締結した「浪江町の復興まちづくり及び水素利活用を含めた脱炭素化に向けた連携協力に関する協定※6」に基づいて推進している。

*5 FS(Feasibility Study):実現可能性調査
*6 浪江町の復興まちづくり及び水素利活用を含めた脱炭素化に向けた連携協力に関する協定:
2021年7月に浪江町と丸紅、日立、パナソニックおよびみやぎ生協の 5者が締結した、復興まちづくり構想および RE100(Renewable Energy 100%)産業団地建設への貢献や地域産業活性化、デジタルトランスフォーメーション(DX)化など、浪江町の総合的な復旧・復興を推進することをめざすもの。