日本酸素HD 2023年3月期通期連結決算(IFRS)
売上収益1兆1866億円(前期比24%増)、コア営業利益1231億円(同19.9%増)、円安が売上収益と営業利益を押し上げ
日本酸素ホールディングスの2023年3月期通期連結決算は、売上収益1兆1866億8300万円(前年同期比24.0%増)、コア営業利益1231億2400万円(同19.9%増)、営業利益1195億2400万円(同18.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益730億8000万円(同14.0%増)だった。
2023年3月期の期末配当金を直近予想の18円から2円増配し、20円とした。これにより年間配当金は38円(前年同期比4円の増配)となる。企業体質の充実・強化に向けた内部留保に意を用いつつ、安定的な配当の継続を基本に、連結業績との連動を考慮した配当政策により、株主への還元に努めるとしている。
当連結会計年度(2022 年4月1日から 2023 年3月 31 日まで)における日本酸素ホールディングスグループの事業環境は、ウクライナの地政学的問題、米中貿易摩擦、世界的なエネルギーコストの高騰や物価上昇、円安の進行など、先行きを見通すことが困難な状況となった。この結果、主力製品であるセパレートガス(酸素、窒素、アルゴン)の出荷数量は、前期比で減少した。一方で、コスト増加分の販売価格への転嫁等の価格マネジメント、さまざまな生産性向上への取組みにグループ全体で注力した。
為替の影響については、期中平均レートが前連結会計年度に比べ、米ドルで113円4銭から136円0銭へと22円96銭(同 20.3%円安)、ユーロで131円11銭から141円62銭へと10円51銭(同 8.0%円安)、豪ドルで83円33銭から92円67銭へと9円34銭(同 11.2%円安)となるなど、売上収益は全体で約796億円、コア営業利益は全体で約99億円のプラス影響となっている。
国内のセパレートガス・LPガス出荷数量は減少も、販売価格の上昇で増収。電子材料ガスの販売は好調
セグメント業績
セグメント業績は、次のとおり。セグメント利益はコア営業利益で表示。コア営業利益は営業利益から非経常的な要因により発生した損益(事業撤退や縮小から生じる損失等)を除いて算出。
日本
産業ガス関連の売上収益は、主力製品であるセパレートガス及びLPガスにおいて出荷数量は減少したものの、コスト上昇に伴う販売価格の上昇により増収となった。また、エレクトロニクス関連での電子材料ガスの販売は好調で増収となった。機器・工事では、産業ガス関連、エレクトロニクス関連共に、前期に比べ増収となった。一方で、エネルギー価格や物価上昇の影響に伴う製造コスト及び物流費等の上昇が続いており、販売価格の上昇との間に時間差があることからセグメント利益を押し下げる要因となった。
売上収益は、4204億5200万円(前年同期比13.0%増加)、セグメント利益は、316億8000万円(同 2.4%増加)。
米国
産業ガス関連では、主力製品であるセパレートガスの出荷数量は前期並みだが、売上収益はコスト上昇に伴う販売価格の上昇により増収となった。また、炭酸ガスの販売が好調。機器・工事では、溶接・溶断関連機材で前期に比べ大幅に増収となった。一方で、エレクトロニクス関連は減収となった。
売上収益は、3030億9000万円(前年同期比 34.8%増加)、セグメント利益は、370億7400万円(同 35.7%増加)。円安の為替影響で売上収益は約456億円、セグメント利益は約57億円のプラス影響。
欧州
主力製品であるセパレートガスは、顧客の稼働状況により出荷数量が減少したが、エネルギー価格と物価上昇の影響等による大幅なコスト上昇を販売価格の上昇で吸収できた結果、売上収益は大幅な増収となった。また、生産性向上とコスト低減の取り組みが寄与した。
売上収益は、2728億8800万円(前年同期比30.1%増加)、セグメント利益は、349億0400万円(同 32.7%増加)。円安の為替影響で売上収益は約168億円、セグメント利益は約21億円のプラス影響。
アジア・オセアニア
産業ガス関連では、主力製品であるセパレートガスの出荷数量は堅調に推移し、売上収益は増収となった。主に豪州地域での販売が多くを占めるLPガスでは、引き続き仕入れ価格の上昇による販売単価の上昇と堅調な販売数量の推移により増収となった。エレクトロニクス関連では、ガス・機器ともに好調に推移し、増収となった。
売上収益は、1599億6500万円(前年同期比 29.5%増加)、セグメント利益は、154億6500万円(同 20.5%増加)。円安の為替影響で売上収益は約163億円、セグメント利益は約17億円のプラス影響。
サーモス
日本では、2022 年春に政府による外出等の制限が緩和されたことから、ケータイマグやスポーツボトルの販売は増加し、加えてフライパンなどの調理用品も好調に推移し、売上収益は大幅な増収となった。海外での販売も順調だった。セグメント利益は、物価上昇による原材料価格の上昇と円安による製造コストの増加で減益となった。
売上収益は、301億9000万円(前年同期比 12.4%増加)、セグメント利益は、60億2100万円(同 6.5%減少)。
今後の見通し
2023年3月期から2026年3月期までの4か年を対象期間とした中期経営計画「NS Vision 2026 – Enabling the Future」を策定した。同計画では、日本酸素ホールディングスグループの5つのセグメントを構成する産業ガスのグローバル4極(日本、米国、欧州、アジア・オセアニア)とサーモスという事業運営体制のもと、5つの重点戦略「サステナビリティ経営の推進」「カーボンニュートラル社会に向けた新事業の探求」「エレクトロニクス事業の拡大」「オペレーショナル・エクセレンスの追求」「新しい価値創出へとつながるDX戦略」を定め、グループ総合力の強化とさらなる成長をめざし、人・社会・地球にとって豊かで明るい未来の実現に貢献する。
事業を展開する地域においては、地政学的問題、貿易摩擦、世界的なエネルギーコストの変動や物価上昇、円安の進行など、先行きを見通すことが困難な状況が続いており、実際の業績等はこれらの要因やその他不確実な要因により中期経営計画の見通しから変動する可能性がある。
2024年3月期の産業ガス事業は、食品、飲料、医薬品、ヘルスケアなどレジリエントマーケットへの注力による成長のほか、カーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組む顧客とともに新たな事業機会を探求する。一方、エレクトロニクス分野では、顧客の生産、需要、設備投資計画に合わせて対応するとしている。
2022年3月期から始まった世界的なエネルギー価格の上昇による厳しい事業環境は、一部の地域で穏やかになったが、地域により状況が異なるとともに、不安定な状況が続いており、依然として今後のエネルギー価格を見通すことは容易ではない。したがって、コスト増加分の販売価格への転嫁等の価格マネジメント、さまざまな生産性向上への取組みに、グループ全体で注力していく。
また、サーモス事業は、物価上昇による原材料価格の上昇と円安による製造コストの増加は継続する見通しだが、機能性を高めた新製品の販売や、フライパン等調理器具を含めた製品ラインナップの拡充、オンライン通販ビジネスを含む電子商取引(EC)サービスに注力し、業績改善を図る。
2024年3月期の連結業績予想は、売上収益1兆1600億円(前期比2.2%減)、コア営業利益1275億円(同3.6%増)、営業利益1275億円(同6.7%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益705億円(同3.5%減)を見込む。主要通貨の米ドル・ユーロの想定為替レートは、 それぞれ130円/米ドル、140円/ユーロ。年間配当金予想は、中間配当が前年同期比2円増配の20円、期末配当は20円を維持し、年間配当は40円(前年同期比2円増配)を予想する。